「別れても、好きでいていいですか…?」

姉の笑顔が、嬉しさから焦がれる気持ちに変わったのは、いつだったんだろう…?

「櫂、どうしたの?」

 加菜子はすぐ下から、櫂を覗き込むように見ていた。少し首を傾げながら、もう少しで寄りかかってくるかのような、そんな距離で。肩に掛けたマフラーが、冷えた風に揺られていた。

 実は、加菜子のファッションセンスはあまりよくない。加菜子に選ばせると、それなりなものを選ぶ割にはえらく地味になる。だから今日の服も櫂が見立てたものをきていた。そしてだいたいは、櫂が見立てたものを加菜子はすごく気に入って着ている。

 今日はだいぶ寒くなってきたので、出がけにマフラーを渡しておいた。加菜子は今、そのマフラーに包まれている。

 不意に抱きしめたくなってしまった。

「よく似合ってる」

「…え?」

 だから、そんな台詞をいってしまっていた、衝動を押し殺すのに精一杯で。しまったと思っても遅かった。櫂はすぐに目をそらす。

 加菜子のこと、まるでベッドサイドにあるぬいぐるみのように感じることがある。加菜子がそのぬいぐるみを抱きしめるときのように、櫂も加菜子のことを抱きしめられたら、どんなに気持ちがいいだろうと、思う。

 でも、そんなことできるわけがなかった。

「…ありがと」

 櫂はみてもいないのに、加菜子の顔が真っ赤になっているのがわかる。末里加菜子は、そういう女だ。普段は櫂に、早く彼女作りなさいよとか彼氏ほしいとかいうくせに、いざそういうことになったら本当に臆病で、だいたいがその直前で加菜子が逃げてしまって、恋が実ることはない。

 加菜子を落とせるとしたら、よっぽど女の扱いになれた男でないと至難の業だろう。そういうのが、ごく普通の若い学生にいるとは思えなかった。それで加菜子は、未だに恋人らしい恋人がいた試しがない──櫂の知る限りは。

 (会社に入ったら、そうもいかないんだろうな…)

 せっかく同じ大学に入っても、加菜子とはすぐに別れてしまう。ちょうど三つ離れているから、小学校を卒業してからは加菜子と一緒に通うことはなくなった。そしてようやく、六年ぶりに同じ学校に通うことができたのに、加菜子は来年早春、卒業してしまう。