表参道
「あ~櫂! みてみて! この服かわいい!」
「買うなら早く買えよ」
「うーん、でも今、給料日前だしなぁ…」
というか給料日前になんだって服を見にくるんだ? という疑問が頭をかすめたが、加菜子の性格上、いっても仕方がないのでいうのをやめた。加菜子は、二階の高さまで全面ガラス張りのショーウィンドウに、釘付けになっている。
「買わないならさっさといくぞ」
「えー、でもこれ、たぶんここにしかないしなぁ」
「どっちなんだよ…?」
「かい買って♪」
「ふざけんな」
櫂はため息をつくと、歩き出した。
「え~、いいじゃない~。たまにはお姉さんにプレゼントの一つでもあげようとか思わないの?」
「たまにはって、いつも誕生日とクリスマスとおまけにホワイトデーはきちんと三倍返ししてるだろうが」
表参道は、秋の新鮮な風が抜けてゆき、ケヤキ並木の葉擦れ音で包まれていた。秋の高く澄んだ青空と、少しずつ赤く染まっていくケヤキの葉。通りをあるく人々もいつの間にか秋物の服に替わっている。徐々に冷たくなってゆく空気と、暖かくなっていく街並み。そんな秋の中で、櫂と加菜子は眩しい木漏れ日を楽しみながら、ふたり並んで歩いていた。手を繋ぎながら。
無意識なのだろう。こういうときはいつも加菜子の方から手を絡ませてくる。ふたり並んで歩くときはいつだってそうだった。小さい頃からずっと。だからきっと、加菜子はなんの気なしにこうして、手を繋ぎたくなるんだろう。
でも櫂は、加菜子の少し冷えた肌の感触が自身掌に伝わってきて、握っていると少しずつ暖かくなってくるお互いの肌を、意識せずにはいられない。
いつからこんなくだらないことを、意識してしまうようになったんだろう──櫂自身も、あまりよく思い出せなかった。幼かった頃は加菜子に手を取られてよく遊びにいった。遊びに行った、というよりは引っ張り回された(それはいまも変わっていないのかもしれないけれども)。そのときは単純に、お姉ちゃんがかまってくれることが嬉しかった、それだけのはずだったのに。
