「別れても、好きでいていいですか…?」


 加菜子は立ち止り押し黙ってしまう。ふたりの手が離れた。

「あ……いや。悪かった」

 加菜子から視線を逸らして櫂はいった。

「あれは、その……相手が悪かったからな。相手に敵わないという意味じゃなくて相手のほうが悪かったから」

「ねぇ櫂」

 加菜子は静かな表情で視線を湖畔に向けていた。

「わたし、やっぱりわからないのかな? 男の人のこと」

 加菜子は両手を後ろに組んで、湖畔に向かって数歩進む。

「もしかしたら、男の人のこと以外でも誰の気持ちもちっともわかってないのかもしれない。わたしは、ただのお節介な人なのかもしれない」

「そんなことはない」

「ううん。わたしね、ときどき思うの」

 加菜子が振り返る。

「櫂は、わたしのことですごく傷ついてるときがある……って」

 櫂は視線をそらした。

「ねぇ櫂……教えて。あなたは何を想っているの?」

 月明かりが静かに降り積もる。まるで小さなスポットライトのように、加菜子を浮かびあがらせた。風が吹いて辺りの樹々はざわめき、加菜子の髪が大きくはためいていく。

「櫂に恋人ができたり一人暮らしをして自立したりするのは、お姉さんとして喜ぶべきことなのにね。やっぱりわたし、変よね」

 加菜子は俯いた。長い髪に隠れて顔が見えなくなる。声だけが、聞こえてきた。

「ほんとはね、寂しくて仕方なかった」

 加菜子の声は震えていた。

「だからせめて……櫂の考えてることくらい……知りたい……」

 櫂は加菜子に近づいていった。ゆっくりと、でも確実に。

 そしてそっと加菜子の頬に触れる。加菜子は涙目で櫂を見上げた。

「櫂は、いつも何かを隠してたわ」

 加菜子の潤んだ瞳が櫂を見上げている。

「わたし……そんなに鈍くないんだからね……」

 櫂はそっと加菜子を抱きしめる。今度は優しく、包み込むように。

櫂の胸に加菜子は泣き顔を埋めた。