「別れても、好きでいていいですか…?」


櫂が一人暮らしを初めてからちょうど一ヶ月が経ち、母親はひとまず身ひとつで帰国した。ひとまず身一つで戻ってきた。「そんなにイギリスが恋しいのか?」と櫂が電話でなじると母親は「いろいろと都合があるのよ、いろいろとね」と含みのある言い方をした。

 そんなわけで櫂は母親に顔を見せないわけにもいかず自宅に戻ってきた。

「はぁ? 近所の友達と飲み会?」

「うん。毎晩お友達に誘われてるそうよ。カラオケとか」

「ったく。仕事もしないで遊びほうけやがって」

 櫂はソファに座った。バイトのあと自宅に戻ったので時刻は夜の十時を回っていた。加菜子はカモミールティーをローテーブルに置いてからいった。

「夕食は食べた?」

「まだ食べてないけど……ところでおまえのほうは食事とかちゃんと食べているのか?」

「うーん。仕事が忙しい時とかはお弁当になっちゃうけど、できるだけ自炊してるよ?」

「そうか。掃除とかもきちんとやっているのか? 洗濯物ため込んだりしてないか?」

「だってそれは櫂がいたころとあまり手間は変わらないし……って。なんで櫂のほうがそんな心配してるのよ!」

「おまえは頭のネジが二・三本外れているからだろ」

「それ どーゆー意味?」

「だからおふくろだって心配して帰国したんだろうが」

「もー。家族そろってわたしを間抜け扱いして」

「わかってんじゃん」

「櫂のいじわる!」

 そんなやりとりを普通にできることが櫂は嬉しかった。離れて暮らし始めても何も変わっていない。加菜子が部屋に通っていた時はやばい時もあったが、忘却力の優れた加菜子はとっくの昔に忘れているようだ。

 何も変わらないのだ、離れても。これが姉弟というものなのだろう。恋人だったらこうはいかない。だから姉弟としての関係の方がずっといいに決まっている──櫂はそんなことを思った。

「お腹減ってるなら お夜食作ろうか?」

「いや……いい。それよりちょっと外に出ないか?」