「別れても、好きでいていいですか…?」


「なんだよそれ?」

「わたしと本当の恋人同士になること」

 櫂は視線を投げかけた。

「おまえはそんな理由で付き合い始めてもいいのか?」

 美和は、うんとはいわなかった。ただまっすぐな瞳を櫂に向けているだけだった。

「あなたを信じているから」

 櫂は目を逸らす。

「……なんでそこまでオレにこだわる。他にもっとまともな男はたくさんいるだろう?」

「きっかけよね。わたしってこう見えても基本的能力がすごく高いんだけど」

「あっそ」

「もう。バカにしないで聞いてよ。受験だって大学での成績だってサークルでもバイトでも、そうそう負けるようなことはなかったんだから」

 確かに美和の仕事は的確かつスピーディーで櫂も評価している。ピーク時に誰と一緒に組んで仕事をすれば最も安心かを問われれば間違いなく美和を選ぶだろう。

「でもあのバイト先、半端じゃなく忙しいでしょ? ピークの数時間で来客数は百名を超えているのよ? そのオーダーをすべて作るのがたった一人だなんて、どう考えても店の造りに構造的欠陥があるわ」

「それは店長にいってくれ」

「まぁそれはそうなんだけれど、でもその不可能を可能にしてしまう人が一人だけいるじゃない。わたしは、あれだけ雪崩れ込むオーダーをすべて憶えて品物を作って提供するなんてことできないわ。でも、あなたはそれを毎週やってのけている」

「ただの慣れだ」

「慣れで出来るようなものじゃないわよ」

「たかがバイトの仕事じゃないか」