櫂の一人暮らしが始まってから二日目。ドアベルはさっそく鳴った。まさか……と思って扉を開けてみると、玄関には加菜子がにっこり笑いながら立っていた。「お久しぶり!」などといいながら。
「でも贅沢いってられないよね。都心から外れてるとはいえ八帖1Kで五万円ちょっとでしょ? いい部屋見つけたよね」
「…………」
そして三日目。大学から帰ると加菜子は勝手に部屋にあがっていた。大家に姉だといって、いろいろ荷物を持ってきたから開けてほしいと頼んだそうだ。終いには合い鍵までもらったという。加菜子曰く「ここって調理器具何もないでしょ? だから家から持ってきちゃった」。
その日から、加菜子愛用の様々な調理器具で櫂の台所は埋まることになる。
「お? 意外にいい味出してきたぞ。このハンバーグ。もうちょっとだからね~。待っててね~」
「…………」
四日目。夜の九時を回りさすがに今日はこないだろうとほっとしていたら、やっぱりきた。コンビニ弁当をぶらさげながら。「今日は残業だったの。櫂ももうちょっと職場に近い場所に部屋を借りてくれれば良かったのにさー」とのこと。そのあと十時に加菜子は帰宅。
そして五日目、それが今日だった。
「はい! できたよ櫂。特製・生クリームデコレーション・ハンバーグ!」
「…………」
「それじゃ、いただきまーす」
「…………」
「どうしたの櫂? 食べないの?」
「…………」
「それじゃ、わたしがもらっちゃおうかな~」
「だああああ! そうじゃないだろ!?」
畳の上に置いた卓袱台を櫂は叩いた。加菜子はきょとんとして櫂を見つめている。
「何よ櫂? そんなにむくれて」
「あのな!? なんだっておまえは毎日毎日オレの部屋にくるんだ!」
