「別れても、好きでいていいですか…?」


 出発の日。

 外は曇り空だった。前日までにすべての引っ越しを終えて あとは櫂が行くだけだった。

 加菜子は櫂が一人暮らしをすると知ったとき特になんの反対もしてこなかった。少し寂しそうに「出発の日はふたりでパーティーしようね」といってきただけだった。それからしばらく、まともに話をしていなかった気がする。

 そして櫂はその約束を守らなかった。バイト先で飲み会があるからと事前に電話だけして。夜遅く帰宅すると、加菜子はリビングのテーブルでふせって寝ていた。テーブルには櫂の好きな鶏肉を使った料理があって、ラップがかかっていた。

 櫂は、リビングで寝入る加菜子を起こした。加菜子は寝ぼけていたので、肩を貸しながら二階にある加菜子の部屋まで連れていく。

 部屋に入り加菜子をベッドに寝かせようと思った。その時、視界に加菜子の無邪気な寝顔が映り、そして甘い香りが鼻孔を突いた。加菜子を手放せなかった。

 気がつくと、櫂は姉を抱きしめていた。

 だから今日のこの選択は正しかったと、そう思っている。

「じゃあ行くな」

「うん」

「昨日は悪かったな。飲み会があんなに長引くとは思わなかったんだ」

「いいよ。今日の昼ご飯にして」

「ああ」

 昨晩のことは気づかれていないはずなのに加菜子はどこかよそよそしい気がした。

「一ヶ月くらいしたらオフクロが帰ってくるらしいが。まぁ……おまえにとってもいい経験だろう? 一人暮らしなんて」

「そうだね」