「別れても、好きでいていいですか…?」


 美和は何かをいいたそうだったが、櫂は聞きたいとも思わなかったので放っておいた。すると美和は唐突に怒りだした。

「あーもう! あなたってほんっと無神経ね!」

「何いきなり怒っているんだ?」

「これじゃあなたを驚かせて慌てさせて、関心を惹かせるっていうわたしのシナリオが台無しじゃない!」

「は? 知るか。そんなこと」

「もういい!」

「そうか。じゃあな」

「あーもー!」

 何を苛立っているのか櫂にはさっぱりわからなかった。そうこうしているうちに美和はぐいっと詰め寄ってくる。櫂は無意識に身を引いた。

「……なんなんだよ?」

「あのね! わたしはね!」

 美和はどんどん近づいてくる。櫂は後退するが、すぐに調理場の端に追い込まれてしまった。それでも美和は近づこうとするものだから、ふたりはお互いの息がかかるのではないかと思うほど接近した。

 頬はもとより耳まで朱く染めあげた美和の顔が目の前にあった。

「な……なんなんだよオイ!」

「わたしは! あなたのことが好きなの!」

「は!?」

「だから! ちょっとはわたしに……興味を……持ってよ……」

 力尽きたのか、美和はその場にへたり込んでしまう。

「……何いってんだ? おまえ」

 櫂は半ば呆然として──しかしそれが表情に出ることはなかったが──美和に問うと彼女は櫂の顔をキッと睨みつけた。

「ちょっと! それが勇気を出して告白した女の子にいう台詞!?」

 勢い良く立ちあがる。

「ありがとうとか嬉しいよとか! 僕も君のことが好きだったんだとかじゃあこれから付き合おうとか! そういうこと一言でもいいからいえないわけ!?」

「だんだん自分の都合のいい方に解釈しているが……」

「とにかく!」

 そこで美和は反転して櫂に背を向ける。

「実の姉と無謀な愛の荒野をひた走るよりは、わたしで手を打っておいた方がずっと身のためだと思いますけど!」

「……脅迫か。それは」

「告白です!」

 ちらちらと見える美和の耳は依然と真っ赤に火照っている。良く見ると、掌を握りしめている白い腕は微かに震えていた。

「……とりあえず、だ」