「別れても、好きでいていいですか…?」

 櫂は驚いて、サンドイッチ用のトマトを切る手を止めた。美和の顔を見る。

 樫木美和は今年大学三年で二十一歳になる。だがそれより数歳は年上に見えるほど大人びた仕草をする、そんな女性だった。二十三歳の加菜子と並べてどちらが年上かと聞かれれば間違いなく誰もが美和だと答えるだろう。大学は違うが櫂の一つ上の先輩ということにもなる。

「櫂くん。あなたの噂はいろいろ知っているわ」

「オレの噂?」

「そ。すっごく仲がいいんだってね。お姉さんと。それはもう必要以上に。男と女のキョーダイとは思えなくらいに」

「だから?」

「え……?」

 顔色一つ変えない櫂を見て、今度は美和の方が面食らっていた。慌てふためく姿でも想像していたのだろう──と櫂は思う。

「だから……って。その……」

「だからなんなんだよ。おまえに関係あるのか?」

「いやあの……関係あるのかっていわれたら そんなにないかもしれないけど……」

「なら別にオレが姉貴と仲が良かろうが悪かろうが どうでもいいことだろうが」

「あ……うん。そーかな……あれ?」

 まったく──とつぶやくと櫂は再び仕込みを始めた。しばらくお互い無言のまま時間が過ぎていく。

「まだ何か用なのか?」

「いやそのー。用があるようなないような……」