なのにやめなかったのは、彼女は“それしか知らない”からだ。


感情はあの時に捨てた。あるのは憎しみだけ。殺したいという憎しみだけだ。


踏み続ける足。


――ふと、バランスが崩れた。


足が浮き上がったのだ。つまりは、踏んでいた死体が動き。


「――」


その下から出てきた虫に頭を喰われた。


悲鳴はない。

あるのは虫がもしゃもしゃと咀嚼する音だけであり。


『人間め、人間め――っ、よくも母さんたちを』


憎しみは受け継がれた。


そうして、皮肉にも、女の憎しみはそこで消えたのだった。



憎しみがない体は動きもせず、考えもしなく、ただの食料になりさがるだけであった。