デスペリア



「やめ、やめてえぇ!」


「……」


夫の足が止まった。制止したと言えよう、無機質なものだった。


聞こえた声がする方を向けば、一軒の家。


中に入り、ぎし、ぎしなる階段をあがった。


「やだぁ、やだぁ!やめてえぇ!」


またあの声。


『いつも美味しいパンをありがとう!』


あの喜び声と今の悲鳴では似ても似つかぬ声のはずなのに、何故かその声が出てきた。


もう考えることを放棄した夫は、何度も壁にぶつかりながら、その部屋につき。


耳障りな声を聞いた。


「――」


扉を蹴破る。


「魔物めえぇ!」


銃を構えて撃ったのは早かった。


全弾撃った。だが、夫は更に引き金を抱く指を離さなかった。