エレベーターの扉を開けて、先にエレベーターから降りる。

中を見ると、目は閉じたままで拳を力強く握り締めている空が立っている。



今、空はどんなことを思っているのだろう。



自分が自殺したときのこと?



今、空はどんな景色を思い描いているのだろう。



自分が生きているときにみた最後の景色のこと?



どちらも空にとっては思い出したくもないことだろう。

それは空が作ってしまった壁・・・



だからこそ、その壁は空自身が壊さなければいけないものだ。


「空」


触れられない手を差し出したところで自分が幽霊だということで余計に踏み出せなくなる気がして、差し出しそうになった右手をぐっと堪えた。


(駄目か)


そう思ったとき、空が目を開けエレベーターの中から出てきた。

それでも、まだ表情は強張ったままで恐る恐る歩き出した感じだ。


「こっちだよ」


階段のほうに空を誘導する。



マンションだが住民にあったことは一度もない。

毎回、夜の十一時以降に来ていて、今日も同じような時間帯に来ているということで住民に出くわすことはないだろう。

おかげで大きな声は出せなくても、普通の会話には何ら支障のない声を出して空を励ますことくらいはできる。


「頑張れ」


その声に勇気づけられたかのように勢いよく早足でこちらに向かってきた。