「無理です。

行けません」


「行けませんじゃなくて、行きたくないだけだろう」


「それでもいいです。

あそこには絶対に行きません」


出会ってまだそんなに長くはないとはいえ、ここまで意固地な空を見るのは初めてだった。

それでも、俺はあそこまで連れて行かなければいけないのだ。


「人の話を聞いていたんですか。

私はマンションから飛び降りたんですよ。

それなのにマンションの最上階に行けって、行けるわけないじゃないですか」


「いや、意外と行けるかもしれないじゃん」


「どうして、どうして翔さんはそうやって自分の都合のいいようにばかり考えるんですか」


初めてのことばかりだ。



意固地な空を見るの初めてだが、こんなにも大声で叫ぶ空も初めてだった。

空が幽霊ではなく生きていたら、周りの住民が窓から顔を出してこちらを覗いてきただろう。



空の瞳からは大粒の涙がこぼれていて、それを拭おうともせずに手を力強く握ってこちらから視線を逸らさずに立っている。



こんなときに不謹慎だ。

その姿は出会って初めて神泉空という女の子、いや、女性が美しく見えた。