そのとき、一葉にはないものが俺の頭の中に入ってきた。



心霊スポットで見た、幽霊の記憶が物凄い速さで映しだされる。

そして・・・



空との出会いと、過ごした時間



拳から力が抜けていき、小さく深呼吸をする。



腕を上げたところで、一葉は目を思い切り閉じて、肩に力を入れた。


「ありがとな」


そう言って、手を開いて一葉の頭を軽く叩いた。


「きっと、あのときの俺が今のことを言われたら迷わずに殴っていたと思う。

俺はあのとき、本当に妃來のことが好きだったからな。

だけど、今は違う。

今は空のことが、神泉空が本当に好きなんだ」


ゆっくりと開けた一葉の目には涙が溜まっていて、それが頬へと伝っていった。

「へっ」と軽く零れ、その涙を拭ってやると、流石に男にそれをされるのが嫌だったようで苦笑いを浮かべた。


「この気持ちを気付かせてくれて、ありがとう」


ようやく、背負ってきたものが下りたような気がした。

それは一葉も同じ思いだったようで、二人ともすっきりとした表情になっていた。


「妃來は渡さない、か。

熱いね、全く」


「やめろよ」


恥ずかしそうに一葉は軽く肘で小突いてきて、それを大袈裟に避けてみせた。


「俺、見守る側になって良かったわ。

お前に幽霊になられたんじゃ、たまったもんじゃないからな」


同じように肘で胸を小突き、一葉はそれを避けずに受けた。



それから携帯を取り出し、妃來にメールを送った。