君ニ恋シテル

「そろそろ戻ろっか」

そう言うと、てっちゃんはベンチから立ち上がった。


こんなに特別で素敵な時間を、もうじゅうぶんってほど過ごしたのに…やっぱり、この時間が終わってしまうのは寂しいと思ってしまう。

私、どれだけ欲張りなんだろ…。


2人並んで、ホテルまでの道のりを歩く。



「今日はほんとに楽しかったなあ」   

「私も」

最高すぎるくらい、幸せな時間だったよ。



「今までの人生で一番の誕生日だった」

「ファンのみんなとお祝いできたんだもんね!良かった良かった」

「うん」


と、てっちゃんがピタッと足を止めた。

どうしたんだろ…?

私も一緒に足を止める。


「でも…こうやって優奈ちゃんと一緒にお祝いできたことが、何よりも嬉しい」

いつもの笑顔で、さらっとそう言うと、てっちゃんは私の目をジッと見つめた。

ドキッと胸が鳴る。


っ…!
どう答えたらいいか解らず、黙り込んでしまう。


数秒間の沈黙。

「さっ、早く戻ろ。遅くなっちゃって、ごめんね」

「…ううん!全然…」

わあー…見つめ合っちゃったよ。
すっごくドキドキした…。



ーーーホテルまでの道を歩く間、私達はほとんど言葉を交わさなかった。

なんだかふわふわして、胸の鼓動が治まらなくて…ぼんやりして。


ホテルのロビーに着くと、てっちゃんとはそこでお別れ。

お互いに手を振り、バイバイした。

そして、別々にエレベーターに乗る。



エレベーターの扉が閉まると、私は大きく息をついた。

本当に、夢のような時間だったな…。
さっきの出来事を振り返りながら、夢心地に浸る。

これも全部、百合香ちゃんのおかげだね。

最初はどうなることかと思ったけど、百合香ちゃんがこの作戦を考えてくれたから、プレゼントも無事渡すことができて、こんな最高の思い出もできた。


てっちゃん、喜んでくれてよかったな…嬉しい。

思い出すと自然と笑みがこぼれた。


…告白はできなかったけど、百合香ちゃんにお礼を言わなきゃね。