君ニ恋シテル

「初めてみんなで遊びに出かけた時…私見ちゃったのよ」

気付けば私はボーリング場での2人のやり取りを渡辺さんに話していた。

ボールを変えようとボール置き場へ行った時、偶然2人を見てしまった時のこと。

話していると、あの時の何とも言えない気持ちを思い出し、少しだけ胸が痛んだ。


「へえー…そんなことが。全然知らなかった!」

「それだけじゃないわよ」

胸が痛いのに、懲りずに話し続ける私。
自分でも何故なのかわからない。
一回話し出したら歯止めがきかなくなってしまった。

次に私は夏祭りでのことを話す。
2人がはぐれた時、手を繋いでいたのを見てしまった時のことを。

どれだけ引き剥がしたい衝動にかられたことか…。

思い出しただけで、胸が締め付けられる。


「マジか!?いつの間にそんな!!っていうか何!?そんなことがあったなんて!」

若干興奮気味の渡辺さん。
鼻息が荒い。

そんな渡辺さんとは正反対の私。
話が一区切りつくと、大きく息を吐く。


…どう見ても2人が両想いなのは明らかで。
そんな2人の様子をずっと見てきた。



………。



胸が苦しい。

でも…なんだかちょっとだけすっきりした気がする。ずっと自分の中にため込んでいた想い。
それを吐き出せた。



「小沢ちゃん、辛かったね」

「えっ…」

何…?
急にどうしたっていうのよ。

少し困ったような顔で、こちらを見る渡辺さん。

…この人は、ほんとにわからない。
読めない人。急に態度が変わる。
さっきまで明るく振る舞っていたかと思ったら、いきなり改まって。


「辛かったでしょ?」

もう一度、確かめるように渡辺さんは言った。

その言葉に、胸がぎゅっとなる。
…気付いたら私は頷いていた。


そっか…私、辛かったのね。
今までずっと。
まるで今初めてそのことに気付いたかのような感覚。

やっと自分の本心が見えた。
認めることができた。


心がすっと楽になる。


そうよね、辛くなかったはずないもの…。
なぜかしら…哀しいはずなのに、唇にはうっすら笑みが浮かぶ。

ほんと私って、バカね…。


「小沢ちゃん!泣いていいんだよ!さあ私の胸に飛び込んでおいで!」

両手を大きく広げる渡辺さん。


「なっ…あなた何言ってるの?泣くわけないじゃない!」

「無理しないで!」

「無理なんてしてないわよっ!」

「えー!絶対無理してる!だって涙目になってるよ!?」

「なってないわよっ!」

「なってる!」

「なってない!」