君ニ恋シテル

「少し休もう」

そう言って、近くのベンチに座る徹平くん。

目の前には大きな噴水が、涼しげに音をたてている。


「ええ…そうね」

緊張しながら、徹平くんの隣に腰を下ろす。


ち、近い…。
肩が触れ合いそうな距離。

ダメよっ!ダメダメ…!
たえられないわ…。
距離を離すために、座り直すふりをしてちょっとだけ横にズレた。

ほっ…。
これぐらいなら、大丈夫。
いい感じの距離感。


と、ほっとしたのも束の間。

「ずっと気になってたんだけど、その手に持ってるのって…」

「えっ?」

手に持ってるもの?
私はゆっくりと自分の手に視線を向けた。


…っ!!


「梅昆布…?」

「ええ、梅昆布…」


………。


ああ最悪よ!
すっかり忘れていたわ!!

よりにもよって梅昆布!
なぜ梅昆布!

もっと可愛らしいお菓子ならまだしも…もう、ほんとに最悪ね…。


「美味しいの?」

「えっ?ええ…美味しいわ。もちろん」

ジッと梅昆布を見つめる徹平くん。
もしかして、食べたいのかしら…?


………。


梅昆布の封を開けると、ふわりと梅の香りが鼻をくすぐる。

「良かったら…」

「いいの?」

こくこくと頷く私に、徹平くんはありがとうと笑顔で言い、梅昆布を受け取る。

微かに触れた指に、ドキッと胸が鳴る。
恥ずかしくて、誤魔化すように梅昆布を頬張った。

美味しい…。
もう飽きるほど食べたこの味。


「美味しいね」

「…っ。でしょ?昔から好きなお菓子で…」

「そうなんだ」

今まで食べた中で、間違いなく今日が一番美味しい…。

大好きな人と分け合うって、こんなに素敵なことなのね。

初めて知ったわ…。


「旅行はどうだった?楽しめた?」

「凄く楽しかったわ!スペシャル過ぎて語り尽くせない…」

笑顔で私を見る徹平くん。

…はっ!
私ったら、つい興奮してしまって…。

照れを隠そうと、咳払いをする。


「ほんと…とにかく最高だったわ。一生の思い出よ」

「ありがとう」

…心から、そう思っているわ。
何よりも、今この瞬間が私にとっては奇跡。