君ニ恋シテル


◇◇◇

はぁー…私は何をやっているのかしら。

売店で買った梅昆布のお菓子を手に持ち、誰もいないロビーをうろうろ。

梅昆布…私の大好きなお菓子。
なんとなく売店を覗いてみたらあったから、つい買ってしまった。


徹平くんの部屋を探しには…もう行けないわ。
絶対浩ちゃんに見つかってしまうもの。

危険だということは、昨日のうちからちゃんとわかっていたわよ。

わかっていて…部屋を飛び出した。
ゆうにゃんと渡辺さんの言葉を振り切って。


我ながら驚きよ。
こんな行動に出ちゃってる自分が。


言ってることもやってることもめちゃくちゃよね。

私は何をやっているのかしら?


………。


さすがにもう…電話するしかないわよね。


「…っ」

緊張で手が震える。
初めて電話するんですもの。
当たり前よね。

メールだって…ほとんどしたことないのに、いきなり電話なんて…。


深呼吸をし、発信ボタンを押そうとすると…

「百合香ちゃん…?」


えっ……?

振り向くと、そこには徹平くんがいた。


「……っ!」

驚きのあまり声がでない。

急に心臓が暴れ出す。


これは…テレパシー?

たった今電話をかけようとしていた相手、徹平くんが現れるなんて。


「何してたの?」

「えっ、あっ、わたっ、私はちょっと……そのっ、徹平くんこそ、どうしたのかしら?」

きょとんとして私を見つめる徹平くん。

あぁ!最悪だわ!
変な受け答えになってしまったわ!


一人心の中であたふたしていると…

「ちょっと散歩しようかなって思って。よかったら、百合香ちゃんも一緒にどう?」

ニコッと笑う徹平くん。


「えっ!!」

はっ!私ったらまた取り乱して…。


「あっ、ごめん。もしかして、部屋に戻るところだった?」

笑顔だった徹平くんの顔が曇る。


「いっ、いいえ!」

あー…もう自分が大嫌いよ。
こんなに動揺してしまうなんて…。


恥ずかしくて俯いていると…

「よかった。じゃあ行こっか」

徹平くんがふわっと優しく笑う。

私はコクンと頷いた。



私…徹平くんのこの笑顔が大好きなの。

私だけにこの笑顔を見せてほしいって、何度願ったかしら…。


ゆうにゃん、ごめんなさい。

私…どうしても、徹平くんと2人きりになりたかったの。

一度でいいから、夢見ていた…。



その夢が…今叶う。



ゆうにゃん、少しの間だけ…許してね。

ドキドキしながら、徹平くんと2人、外へと足を踏み出した。