君ニ恋シテル


◇◇◇

「ゆうにゃん!渡辺さん!」

その声に振り向くと、百合香ちゃんがいた。


「小沢ちゃんお帰り。あれ?浩ちゃんは?」

亜紀ちゃんがそう言うと、

「今来るわよ。ほら…」

百合香ちゃんが後ろを振り向きながら言う。


「浩ちゃーん!」

歩いて来る浩ちゃんに逞くんが手を振った。
浩ちゃんは笑顔で手を振り返し、逞くんに駆け寄る。


「小沢ちゃん、浩ちゃんと何話してたの?」

「運んでもらったお礼を言っていただけよ」

「ふーん…ねえ、浩ちゃんとペアで気まずくなかった?小沢ちゃん、お化け屋敷入る前凄くイヤがってたから…昨日のこともあるし」

「ああ、それは別に大丈夫だったわよ」

「そっか。浩ちゃん、小沢ちゃんが気失ってる間も凄く心配してたんだよ」

「そ、そう…」

百合香ちゃん…頬赤い?
気のせいかな…?


「百合香ちゃん、体調はもう大丈夫?フラフラしない?」

「ええ大丈夫よ、ゆうにゃん。心配無用だわ」

そう答える百合香ちゃんに、私もホッと一安心。
浩ちゃんとも気まずくならなかったみたいだし…よかった。


すると…

「徹平くんさっきはごめんね。勝手に走って行っちゃって…」

「ううん、他のグループと合流できててよかったよ」

後ろから、てっちゃんとお化け屋敷でペアだった子の会話が聞こえてきた。


優しい言葉をかけるてっちゃん。
てっちゃんは誰にでも優しい。


…胸がぎゅっとなった。


お化け屋敷で抱き締めてくれたのも、手を繋いでくれたのも、もしかしたらてっちゃんにとっては、普通の優しさなのかもしれない…。

相手が私じゃなくても、同じことをしたのかな…。

やっぱり…私だけ特別なんて、ありえないことだよね。

やっぱりというか…最初からそんなこと、ありえるわけがないと考えるのが普通で。

それなのに、あんなに真に受けちゃって、勝手にドキドキして…。

なんだかそんな自分が恥ずかしい。


あの大好きな笑顔も、みんなのもの…。

特別になれたらいいのに。
独り占めできたらいいのに。

そんなふうに思ってしまう。