君ニ恋シテル

「行こう」

「うん…」

てっちゃんの声を合図に、また歩き出す。

てっちゃんが隣にいてくれてほんとによかった…。そばに感じる温もりと優しい声で、安心できる。


早足に家庭科室の出口へ向かっていると…



ガシャンッ!



「きゃっ!」

静かな家庭科室に、大きな金属音が響いた。

驚いた拍子に思わずてっちゃんに抱きつく。
もうヤダ…怖いっ…。
抱きついた恥ずかしさよりも、今は怖さが上回っていた。


すると…

「…優奈ちゃん、大丈夫だよ。鍋が床に落ちただけだから」

え…。
てっちゃんに抱きついた状態のまま後ろを振り向く。

あ…ほんとだ。
そういえば、さっき何かにぶつかった気が…これだったんだ。

なんだ…。

と、ホッとしたのも束の間。

よくよく見ると、鍋の中から得体の知れないものが沢山こぼれ落ちていた。

えっ…なにこれ。
虫の死骸…?
なにっ…!?


「やっ…!」

またまた恐怖が襲い、てっちゃんの胸に顔を埋め抱きつく力が強くなる。

ほんとにもうヤダっ…!
涙が出そう…。


数秒後…

「…大丈夫?」

てっちゃんの優しい声が、すぐ近くで聞こえた。

あっ…ヤバイ。
私、いつまで抱きついて…。


「ごめっ…」

急に恥ずかしくなり、てっちゃんから離れようとすると…



ギュッ。



えっ…。

離れようとした体を、てっちゃんが抱き寄せた。

優しい腕が、私を包む。


「…俺がそばにいるから、大丈夫だよ」

ドキンと胸が鳴り、一気に鼓動が早くなる。

耳元で囁かれた声に、胸が震えた。
何も言葉を返せない。

ドキドキし過ぎて、壊れちゃいそう…。
呼吸が止まっちゃう…。



と…てっちゃんの体がゆっくりと離れた。

「…行こっか」

そう言って、てっちゃんは私の手を握る。


えっ…

思わずてっちゃんを見ると…

「このほうが怖くないでしょ?」


私…もうどうしたらいいの?
ドキドキして、体が熱い…。
声が出なくて、頷くことしかできなかった。