入った途端、ヒヤッとした空気を肌に感じる。

理科室の独特なにおい。
薬品のにおいと…それから。


「うわ…ここは他にも増して気味が悪いな」

少し遅れて入って来た浩ちゃんが呟く。


壊れた人体模型。そして、ビーカーやフラスコ、試験管がめちゃくちゃになってそこらじゅうに転がっている。



気味が悪い…。
ほんとにそう思った。


それに…

「このにおい…なんだ?」

浩ちゃんがイヤそうな声を出す。


何かしら…。

薬品と何か違うものが混じり合った、鼻をつくにおい。


一歩足を踏み出すと、


パリンッ…


な、何!?

その音に、恐る恐る下を見る…

なんだ…ガラスの破片だわ。
でもこのガラスは…偽物。
当たり前よね、本物だったら怪我人が出るもの。



ホッとしてテーブルに手をかけたその時…




ベトッ…




え…?

手に、何かがついた。


「百合香ちゃん…?」

浩ちゃんが不思議そうに話しかける。


何が…ついたの?
ゆっくりと顔の目の前へと手を移す。
薄暗くてよく見えない…。


頑張って目を凝らすと…

「あ…ぁ!!」

心臓がドクンと鳴った。
一気に鼓動が早くなる。


わかったわ…。


これは…血よ!!


においの正体も、これだったのね。

グラッと大きな目眩に襲われる。



「百合香ちゃん!!」

浩ちゃんが駆け寄ってくる姿がスローモーションに見えた。





それを最後に、私は意識を失った。