◇◇◇

夜。


『…ってことで、もう元通り!心配かけたな、徹平』

電話から聞こえる逞の声に、部屋で一人俺は笑みをこぼす。


「逞は言い出したら聞かないからなぁ。とにかく…無事会えてよかったよ」

危ないからと何度も止めたのに、逞は沙弓ちゃんのマンションに行くと言って聞かなかった。


「気を付けて帰れよ?また騒ぎになったら…」

『大丈夫だって!しかも今日は泊まりだから帰らない!』

泊まりって…。
全然反省してないだろ。


「はぁー…」

電話を切り、ソファーにもたれ、俺はため息をついた。

逞らしいって言えば逞らしいけど…。



俺はあの日のことを思い出す。
熱愛報道があったあの日…


ーーー…
ーー…


『…どうするんだ?』

社長に沙弓ちゃんと即別れろと言われていた逞。

俺は逞に、沙弓ちゃんとのことを今後どうしようと思っているのか聞いた。


『どうするって?』

『沙弓ちゃんとのことだよ』

『…どうするもこうするも』

逞は迷わずこう言った。


『別れるわけないじゃん』

即答。
はっきりと言い切った。


『やっぱりな』

俺はそんな逞を見て微笑む。
逞の気持ちは少しも揺らいでなんていなかった。



部屋の扉が開き、ついさっき出ていった浩ちゃんが戻ってくる。

浩ちゃんの手にはコンビニのビニール袋が握られていた。


『ほら!アイス買ってきたぞ!バニラの。これでも食って頭冷やして元気出せ!』

『うわっやった!アイスだ!浩ちゃんナイス!』

逞が嬉しそうに飛び付く。


『なんだよ、元気じゃねーか!心配して損した。やっぱやらん!』

『えっ!ごめんなさい浩ちゃん!このとおり!』

逞は手を合わせ、大きく頭を下げる。


『あはは、嘘だよ。…ほらよっ!』

それは、浩ちゃんの優しさだった。


『浩ちゃん、ありがとう』

俺は浩ちゃんにお礼を言う。