ファミレスに着くと、いつものように無愛想な池田さん夫婦の姿。

そういえば、昼間ここに来るのは初めてだ。

お客のいないガランとした店内を、明るい太陽の陽射しが照らしていた。

私達は席につきアイスコーヒーを頼む。


「はぁー、涼しい。外は凄く暑くて大変だったね」

沙弓ちゃんは帽子を脱ぎ、長いキレイな髪をととのえる。

その自然な仕草に思わず見とれてしまう。

何度も思ってるけど、沙弓ちゃんはほんと可愛い。


間もなくすると、アイスコーヒーが運ばれてきた。

「どうぞ」

店員の池田さんは相変わらず無表情で感情が読み取れない。

てっちゃん達とここで初めて会った時、てっちゃんは池田さん夫婦のことを優しいって言っていたけど…私にはやっぱり意味がわからなかった。


アイスコーヒーを一口飲むと、沙弓ちゃんが静かに口を開く。

「…心配かけちゃってごめんね」

「ううん…大変だったね」

そのあとの言葉が続かない。
明らかに元気のない沙弓ちゃんに、どんな言葉をかけたらいいのか…わからなかった。


数秒間の沈黙の後、沙弓ちゃんが決心したように口を開く。


「私ね…逞と別れなきゃいけないかも」

「え……?」

沙弓ちゃんは今にも泣き出しそうな顔をしていた。

潤んだ瞳に私が映る。


「社長に言われたの…すぐに別れろって。きっと逞も言われてる。今回のことで、沢山の人に迷惑をかけた。ファンの人達も裏切る形になっちゃって…」

沙弓ちゃんの声は震えていた。


「…そんなことないよ。確かに大変なことになっちゃったかもしれないけど、別れるなんて…逞くんはなんて言ってたの?」

「なんにも話してないの…。何度も連絡来てるけど、怖くて…。別れるって言われたらどうしたらいいのか…」

沙弓ちゃん…こんなに悩んでたんだ。
逞くんを想う気持ちが痛いほど伝わってきた。


「逞くんは別れるなんて絶対考えてないよ!」

「……そうかな?」

「そうだよ!沙弓ちゃんのこと大好きな逞くんだよ?絶対大丈夫!」

「優奈ちゃん…」

涙目のまま、沙弓ちゃんは優しく微笑んだ。