「徹平!」

ちょうど一人でいたてっちゃんに、逞くんが声をかける。


「逞っ!お前なんで来てるんだよ!」

「なんでって、記念すべき初キスシーンを見に来たんじゃん!でもほんとにキスするとは思わなかったなぁ」

逞くんがニヤニヤしながらワザとらしく言う。


「あれは…するふりの予定だったんだけど、気付いたらああなってて」

てっちゃんが話す姿を、私はしっかり見れずにいた。

今にも涙が溢れてしまいそうで…。


どんどんどんどん好きになる。

知らぬ間に、好きの気持ちは最初の頃よりもっと大きくなっていた。


すると…

「徹平くーん、お疲れ様…って、お友達?」

西村陽花だ。
手にはメロンソーダが入ったカップが握られている。

私の胸は更に痛みを増した。


ちらりと横を見ると、咄嗟に物陰に隠れる逞くんと沙弓ちゃん。

一方、百合香ちゃんは怒り丸出しで西村陽花を睨み付けていた。


が、そんな百合香ちゃんの睨みには怯みもしない西村陽花。余裕の表情で、完璧私達を見下していた。

所詮、一般人。
西村陽花の目はそう言っているように見えた。


胸が、ズキリと痛む。


ああやっぱり…。
別世界の人。

いくらてっちゃんと友達になっても、距離が近くなっても、遠い人って思い知らされた気がした。

この前みんなで遊んだ時、ドキドキした気持ちさえ…全部意味のないものみたいで、適わない気がして。


さっきのキスと、今の西村陽花の態度に、積み上げてきた大切な気持ちが崩れ落ちてゆく。


西村陽花のほうが…てっちゃんと距離が近くて、同じ世界にいるんだって、前よりも強く感じてしまった。

私は一般人、西村陽花は芸能人。
それはどうしたって越えられない壁。



「徹平くん、さっきは唇触れちゃってごめんね。ほんとにキスしちゃったね」

甘えたような声で話す西村陽花。

その姿に、百合香ちゃんは顔を歪め拳を強く握りしめた。

亜紀ちゃんも洋祐くんも、呆れ顔で西村陽花を見つめている。


と、

「陽花ちゃーん」

誰かが西村陽花の名前を呼んだ。


「…マネージャーが呼んでるみたい。ちょっと行ってくるね」

不機嫌そうにため息をつくと、西村陽花はマネージャーのもとへ向かう。