撮影場所に着くと、

「えー!ちょっとなにこれー!」

亜紀ちゃんが驚き声を上げる。


撮影場所にはすでに沢山の人だかりができていた。

凄い人!
これじゃあ何も見えないよ…。


すると、

「はい、ちょっとすみませーん!」

急に逞くんが人波をかき分け始めた。


逞くん!そんな無理矢理…。


「みんな早く!」

呆気にとられる私達に、逞くんは笑顔で手招きをする。


「す、すみません…」

ひぇー、みんなの目が怖い。


人波を通り抜け前まで来ると、浴衣姿のてっちゃんと西村陽花の姿が目に入った。

二人は何やら監督らしき人と念入りに話し込んでいる様子だ。


真剣な表情のてっちゃん。
カッコイイな…。
浴衣も凄く似合ってる。
思わず見とれてしまう。

そして…隣には西村陽花。
西村陽花の浴衣姿は、艶やかでとてもキレイだった。気品に溢れていて、それでいて色っぽさもあって…。

同じ浴衣姿でも、私とは大違い。

って、当たり前だよね…。
女優と自分を比べるのが間違ってる。


落ち込んでいると…

ドンッという大きな音とともに、夜空に花火が打ち上がり始めた。

「きゃあー、キレイ!」

「わぁー!」

みんな一斉に空を見上げ、歓声を上げる。

ほんとキレイ…。


みんなが花火に夢中になる中、

「徹平ファイトー!」

逞くんが叫んだ。


私達は逞くんの行動にぎょっとし、花火から意識がそれる。

逞くん!そんな大きな声で!

瞬間、てっちゃんが私達の方を見て驚きの表情を浮かべた。


「あっは!徹平、超驚いてる!」

逞くんはお腹を抱えおかしそうに笑う。


逞くん、あんまり騒がないほうが…。

心配しつつ、てっちゃんに視線を向けると、ばっちりと目が合い、ドキッと胸が跳ね上がる。


「本番行くよー!一回きりだからねー!」

花火の音をかき消すような監督の大きな声が響き、撮影のスタートを告げると、てっちゃんの視線はすぐにそらされた。


ドキドキがおさまる暇なく、撮影が始まってしまった。

どうしよう、鼓動が早い…。



てっちゃんが真剣な眼差しで西村陽花を見つめる。

それだけで、私は泣きそうになった。

胸が痛いよ…。