「それでは、この前発売したばかりのシングル『夏に恋して』聴いてください!」
きゃあああぁー!!
逞くんがそう言ったのを合図に、爽やかなあのメロディーが会場いっぱいに響き出した。
亜紀ちゃんに叩かれた肩を擦りながらも、私はまたステージに釘付けになる。
甘酸っぱい夏の恋を連想させる曲。
爽やかな夏のシーンが頭に浮かぶ。
と、同時に…
西村陽花も浮かぶ…。
頭の中では夏に恋してのPV、そしてドラマの場面が次々と流れていく。
目の前で歌うてっちゃんを見ながら、私の胸は一気に切なさでいっぱいになった。
ふと後ろを振り向くと、ブルーのペンライトが会場全体に沢山揺れていた。
キレイ…。
その輝きに、胸がギュッとなる。
前に向き直り、てっちゃんを見つめた。
目の前にいる。
手の届く距離。
だけど…遠い。
こんなにも、遠かった。
そうだよ…思い出した。
てっちゃんは、手の届かない人だった。



