「王子さまだ……」
「いや、違う」
…王子さまは意外とザックリ切り捨てるみたい。
でも、素っ気ない言い方なのに嫌な気にはならない。
というか、むしろそれが自然なような。
…不思議な人。
黒い髪も、目も、服も。
闇に溶け込んでしまいそうなその姿。
「……なにか」
「え?……わっ」
消えてしまいそうで、無意識に服の裾を握っていた。
「ごめんなさい」
なんだか、服だけでも、触れてしまったことが、いけないことのように思えて。
「別に…構わない」
王子さまは、しゃらーんと音を出して前髪をたなびかせた。
「王子さまはここで何をしているの?」
「や、だから王子さまでは…まあいいか」
自分でも分かる程にキラキラと目を輝かせて王子さまを見つめた。
あたしん家の屋根の上にこの王子さまがいることが、何だかとても素敵なことに思えたんだ。


