パーキングに行かな…い…?


その瞬間

チン…という例の音がした

1階で降りるのか?

もしかしてタクシーを呼んでいる?

落ち着け…

シュミレーション外の事態だけど

基本は変わらないんだ

慌てるな

僕は自分に言い聞かせた




ドアが開いた

黒服は降りない

そうか

タクシーか

それか

迎えの車が来てるんだ

僕はドアに向かって歩こうとした



「失礼…」

その時黒いコートの中年の女性が

エレベーターに乗り込んできた

「ごめんなさい…3階を押して頂け

ます?」

女性は黒服にそう告げた



エレベーターのドアが

静かに閉まった

僕を中に閉じ込めたまま




「…降りないの?」

僕は震える声で男に訊いた

「ああ…」

男はいつものように無表情に答えた

上昇がまた始まった

1階のドアは

この人が乗るためだけに開いたのだ




3階のドアが開いた

「どうも」

コートの女性が降りて行った

ドアは再び閉じた



頭の中が真っ白になった

身体から冷や汗が流れ落ち

僕はその場で凍りついていた

表示が動く

4…5…6…7…8…

どんどん上に昇っていく

逃げられない…

逃げることができない

なんで?

なんでこのエレベーターは上に?

なぜパーキングを通り越したの?

なんで?

なんで…?




僕の両足から力が抜けていった

肩が壁にぶつかり

そのまま僕の身体は

下に沈んでいった