僕の内臓の中に挿入された

《エクスタシー》と呼ばれるそれは

小さな錠剤だった



MDMA

メチレンジオキシメタンフェタミン

僕の中の愛情や共感さえねつ造する

“それ”

だけどそれが

今の僕にとって一番枯渇していた

孤独という闇を溶かす幻想を

与えることになった

(溶けるよ…)

その意味があのあとわかった

身体が融合したような

一体感

それは兄としか味わったことのない

存在の共有という感覚に似ていた



僕は初めて明け方去っていく男を

追いかけ

追いすがった

行かないで…と言った

あまりの淋しさに

気が狂いそうになった

男は薄笑いで僕を抱きしめて

すぐに突き放した

またな

欲しくなったら連絡しなよ

僕は暗い部屋に独り取り残され

泣いた

なぜこんなになったのか

その時はわからなかった



友達の忠告は

正解だった

タイミングもなにもかもが

正解だった

その日から僕の墜落は

完全に加速していったから…

だけど僕はそのシグナルに

従うことができなかった