「いいの…そんなこといいのよ…」

「私は…みんなに何もしてあげられ

ない…できることが…ないんです」

彼は申し訳なさそうにそう言った

その言葉がとても切なかった

同じようにそれを感じた母が

ニコニコしながら彼に答えた

「なにかしてもらおうなんて考えて

なかったわよぉ…勝手にこっちがし

たいのよ…なんでもしてあげたいっ

て…でも私達もあんまりできること

なくってね…けっこうツライわねぇ

こういうの」

「お互い…ツライですね」

彼がポツリと言った

それを聞いて母はプッと笑った

「そうねぇ…ただ気持ちを伝えたい

だけなのにね」

「そう…ですね…でも…彼が私にあ

なたがたの分まで伝えてくれてます

…ほんとに感謝してるんです…彼を

産んで…こんないい子に育ててくれ

て…私は救われてるんです」

すると父が口を開いた

「おまえも一緒にこいつを育ててく

れたんだよ…一生懸命可愛がってく

れて…色々あったけどこいつはまっ

すぐ育った…感謝してるよ…ほんと

に」



それを聞いて僕はどうしようもなく

胸に込み上げるものがあった

そうなんだ

結局僕は愛されてたんだ

あの夢の記憶の中の父と兄が浮かぶ

でも僕は愛されてた

誰にでも限界はある

若い父と狂った過去

それでもギリギリの選択の中で

僕はみんなに必死で愛されてた

涙が溢れてくる

みんなの前で泣くのは嫌だったけど

それはもう止められなかった

「トイレ行ってくる…」

そう言って僕は席を立った

トイレで泣こう

泣きたいだけ泣こう

親父のバカ…