失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】





それから少しして

彼はよく眠るようになった

朝に吐く頻度が増えた

痙攣の発作も



脳圧が上がってると院長が言った

ステロイドが処方され内圧を下げる

楽になると彼は言う

会話が減ってきている

院長に僕だけ呼ばれて話を聞いた

覚悟しておいたほうがいい…と

そのことだった



ゆっくりと…でも確実に

彼の身体が旅立つ準備を始めた



毎晩キスして帰る

次の日にはもう

往ってしまうかも知れない

彼と僕が毎日を悔い無く過ごす

もうそれしか考えられなかった



僕は実家に電話した

彼がまだ意識があって話せるうちに

両親に会わせたかった

電話で兄がもう長くないことを

母に告げた

無言になった母の電話を

ずっとそのまま聞いていた

「すぐに…行くわ…お父さんと」

最後に母はそっとそう言った

「わかった…待ってるよ」

僕がそう言うと母は電話を切った