「向こうは…どんな世界なのかな」
僕を腕の中であやしながら
彼はそんなことを口にした
「向こう…って?」
「あの世だよ…みんないろいろ言う
でしょ?…あるとかないとか含めて
ね…知らないことは怖い…でも私は
そのことに好奇心があるんだ」
彼の言葉に僕は驚いた
ここまで来て“好奇心”なんだ…
兄が生来の科学者だということを
僕は改めて感じた
「もし私が死後“意識”というもの
を残してたら…君にサインを送るよ
…なんか決めておこう…」
それを聞いて僕は思わず言った
「僕…臨死体験っぽいの…したこと
あるんだ」
「えっ?…それほんと?」
「医者が心停止してたって言ってた
から…大間違いでは無いと思うよ」
僕は例のヤク中のときの話をした
「うう…君はそんなひどいことに巻
き込まれてたのか…ぞっとするよ」
彼は顔をしかめて首を横に振ると
僕をぎゅっと抱きしめた
「でも…そのとき恐怖はなかったん
だ…現実のほうが痛くて不安でたま
んなかった…あっちの世界はすごく
はっきりした夢みたいな…痛みもな
いし…静かで平穏だった」



