失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】





「向こうは…どんな世界なのかな」

僕を腕の中であやしながら

彼はそんなことを口にした

「向こう…って?」

「あの世だよ…みんないろいろ言う

でしょ?…あるとかないとか含めて

ね…知らないことは怖い…でも私は

そのことに好奇心があるんだ」

彼の言葉に僕は驚いた

ここまで来て“好奇心”なんだ…

兄が生来の科学者だということを

僕は改めて感じた

「もし私が死後“意識”というもの

を残してたら…君にサインを送るよ

…なんか決めておこう…」

それを聞いて僕は思わず言った

「僕…臨死体験っぽいの…したこと

あるんだ」

「えっ?…それほんと?」

「医者が心停止してたって言ってた

から…大間違いでは無いと思うよ」

僕は例のヤク中のときの話をした

「うう…君はそんなひどいことに巻

き込まれてたのか…ぞっとするよ」

彼は顔をしかめて首を横に振ると

僕をぎゅっと抱きしめた

「でも…そのとき恐怖はなかったん

だ…現実のほうが痛くて不安でたま

んなかった…あっちの世界はすごく

はっきりした夢みたいな…痛みもな

いし…静かで平穏だった」