失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】





病室に戻ると彼は背もたれを直さず

座ったままで眠っていた

待ってたのかな…

ベッドの中で3時間も人を待つのは

辛いだろう

「ただいま…横になろうね…」

このままでは身体に負担なので

背もたれを直そうと彼を起こした



「あれ…寝てた…」

眠そうな顔を挙げて彼が僕を見た

「目が赤い…」

「あ…いや…痒くてこすった」

「ごめん…泣かせた」

「ちがうよ」

すると彼は僕をじっと見て言った

「泣くならここで泣いて欲しいな」

「そん…な…」

「ひとりで泣かないで…お願い」

「だって…あなたが…辛くなる」

「泣いて帰ってきた君よりマシ」

彼はとても切ない顔をした

「…慰めさせてくれないかな…まだ

生きてるんだから…こうして」

彼はまた泣きそうな僕の手を

つかんで自分の方へ引き寄せた

引かれるままに僕はベッドに腰かけ

彼の腕の中に抱かれていた