失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




荷物を抱えて病室に戻ると

彼はベッドに横になっていた

「おかえり」

寝ていると思っていたら起きていた

「ただいま…着替え持ってきた」

「ああ…ありがとう」

少し表情がある

ちょっと安心した

「気分はどう?」

「まあまあ…かな…里帰りした気分

だよ」

「嫁ぎ先から?」

「そうそう」

彼は少し笑った

「お産のために帰らせて頂きます…

あれはつわりです…ダンナ様」

そんなふうに吐いたことを茶化して

彼はもう一度笑ってみせた



僕を慰めてくれてるのがわかった

僕が慰めなきゃいけないのに



「ふざけちゃいけませんよ奥さん」

「そうだね…話そう…今後のこと」

彼は微笑みながらも淋しげな顔で

ベッドから僕を見あげた

「うん…話そう…一緒に考えよう」

彼はうんうんとうなずいた

「いま…なにを考えてるの?」

僕はいま一番知りたいことを

最初に聞いた

回りくどいことをしている時間は

僕達には一切なかった