失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




舞い戻ってきた病室のベッドで

彼はまだ呆然としたような

うつろな顔をしていた

そんな彼は再会してから初めてで

それがどれだけショックだったかを

彼のその表情が物語っていた

こんな時こそ

僕がしっかりしなくてはならない

そのために僕は此処にいるのだ



彼…死を受け入れたはずなのに…

それが彼のあの透明な明るさの

原点だったのに



そんな吹っ切れた彼でさえ

それを目の前にしたら

こんなふうになるのかと

その痛ましさが僕を苛んでいた




病院を一旦離れて部屋に帰り

パジャマや下着やタオルなんかを

紙袋に詰めていると

それでも僕はこうやって彼を

見ていることができるそのことに

ギリギリで救われてるような

激しい安堵感に襲われた

もし彼が僕に興味を持たなかったら

僕は今頃どうなっていたんだろう?

それを考えると心底ゾッとし

そして今の状態が奇跡に思えた



神様は残酷なのか優しいのか

今の僕にはわからないけれど

でも僕は理由もなく

この悲しみと優しさに満ちた日々を

愛しい…と思った