失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】





結局は彼はちょっとのサラダと

6枚切りのトースト半分でおわり

卵は2個とも僕が食べた

食後にテレビでしばらく

ニュースなんかを見ながら休み

そのあと夕方まで横になって

安静にしていてもらうことにした

ベッドに彼を寝かせて

寝室を出ようとすると

彼は僕を呼び止めた



「こっちに来て」

「どうしたの?」

「一緒に…居てくれないかな」



彼が今日初めて僕に頼んだのは

一緒にいて…ということだった



「いいよ」

僕がベッドに腰掛けると

彼の手が僕の服の袖を掴んだ

「隣に来て」

布団に引きずり込まれた

「一緒に寝る?」

「うん…いいでしょ?」



彼の隣に滑りこむと

すぐに彼の腕が僕を抱き寄せた

彼が僕を必要としてくれてる

その思いが伝わってきて

僕も彼を強く抱きしめた

その抱擁の中で彼が囁いた



「キス…して…」



彼がそう言った

いままで一度も言わなかったことを



「いいの…?」

「お願い…何も言わずに…して」



その切迫した彼の囁きを聞いた時

僕はその言葉が終わらないうちに

彼の唇に自分の唇を重ねていた

もうその願いを止められる抑制は

僕の選択の中に無かった

たとえ彼が兄としての記憶を

これで取り戻してしまったとしても