「…それを認めたんだ…全部」
彼はとても幸せそうに呟いた
「み…認めたの…?」
「うん…プライドとか尊厳とか…自
分への期待とか…生きる価値を見出
したい渇望…それまでそれが微かに
でもあって…なんとかしようって無
意識で…気が狂いそうだった…でも
そんなもの何もなかったんだ…ただ
…五感が感じたこと…それだけしか
私にはないんだって…わかった…わ
かったら苦しさが終わった…とても
気持ちいい解放感に包まれてて…」
そのとき一陣の風が吹き抜けた
彼は空を仰いだ
「なんにもない…何もないんだよ」
「なにも…ない…」
「そうだよ…苦しむ必要がない…」
「なぜ…?」
「だって…苦しむべき“私”を失っ
たんだから」
「私を…失う…」
「ああ…そうだよ」
これが答えだった
これがその答だった
そしてそれは
兄が渇望していた答だった
だけどこの答えは
僕がいちばん欲しかった
そのものかもしれない
世界を…人生を失った空虚を
超えていくための



