失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】






「結局気づいたことは…記憶があっ

てもなくても人は不幸にも幸せにも

なりうる…ってことだった」

ある日の会話で彼はそんなことを

僕に語った

「人の幸せは記憶や自分っていう認

識には依存しないんだ…と思うんだ

…君はどう思う?」

僕は控えめに答えた

「僕も…そう思うよ」

控えめだけど心の中では

確信を持って

だって兄貴は…

兄貴という人格を失って初めて

あなたっていう幸せを知った



でも…なぜそう思えたんだろう?

僕はそこを聞きたかった



「あなたは前は死んでしまいたいく

らいだったのに…なんでこんなに自

由で明るくなったの?」

それを聞くと彼は僕の方を見て

ちょっと驚いたような顔をした

「聞きたい?」

「うん…いちばん聞きたい…かな」

「そっか…えーとね…うん」

彼は自問自答みたいに独りごち

自分で納得したようだった

「私は孤独で寂しくて誰からも愛さ

れてなくて必要とされてなくてなん

の役にも立たない社会のお荷物で変

態の奴隷で犬以下の家畜同然の存在

だった」

彼はそれをよどみなく一気に言った

微笑みながら言った彼のその言葉は

僕にはものすごい衝撃だった