失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】





その1週間後

僕と母は兄のアパートにいた

この部屋を引き払うために



朝から母と二人で電車に乗った

なんてことない話をして

1人で行くより早かった



母が定期的に換気に来てたので

僕が荷物を取りに来たときのまま

部屋はカビ臭くもなく綺麗だった



「さてさて…さっさと済ませて早く

帰ろうね!」

母がふっ切れた声で言った

荷物をまとめたらあとは親父が

今度の休みに会社の軽トラを借りて

ぜんぶ運んでくれる

それで不動産屋に鍵を返して終わり

この部屋とさよならだ



片付けながら“長かったな”と思う

いや…短かったのかな

でも長かった

いろいろあった部屋だったから



犯されて

別れて

守られて

失って

待って

堕ちて

そして…



もうここを守らなくていい

それは解放なのか

喪失なのか

僕には判然としなかった



ただここがもう古い場所で

僕達は泣こうが喚こうが

もう新しい場所に連れて行かれた

それだけはわかる

思い出というには暗すぎる記憶

でもその暗さは研がれた刃のように

鈍色に光を投げかけていた

神聖さすら覚えるほど



母と一緒に近くのコンビニに歩く

段ボール箱とミネラルウォーター

兄と歩いた道を行って帰った