放心した母と泣きそうな父が
帰宅したのは夜だった
おかえり…と呟くように言って
玄関に立った僕に
母は無言で倒れ掛かってきた
僕は久しぶりに母を抱きとめた
あまり食べていない母は
ハッとするほどとても軽かった
三人が三人とも言葉を失って
ひたすら悲しみに耐えていた
なにか言ったらもうそれで
崩壊してしまいそうだったから
母の後ろで立ち尽くしていた親父が
ゆっくりとまた外へ出ていった
振り向くと僕に手で合図した
(ちょっと走ってくるわ…)
玄関前に止めてあった愛車に戻り
そしてすぐにエンジンの音がして
父はもう一度出かけていった
たぶん…独りで泣きたいんだろうな
兄のことで父がなぜいつも泣くのか
今ならわかる
どうにもしてやれなかった…
その悔恨が重すぎて
泣くのを止めることすら出来ない
僕は久しぶりに母を抱きしめた
久しぶりじゃない
初めて抱きしめてた
「うああああぁ!」
母の喉の奥から叫びとも
嗚咽ともつかない声が絞り出された
あまりのことにいままで
泣くこともできなかったんだろう
いまごろ車の中で
親父もきっと泣いてる
「辛かったね…母さん…」
言った途端に僕も声が震えた
「ううっ…」
自分が悲しいのでなく
母が悲しくて僕は泣いた
慰める言葉がなかった
一緒に泣くことしか出来ない
それがこの日の夜だった



