彼の去った公安のシェルターを
僕が解放されたその頃に
兄が見つかった知らせと
記憶喪失を同時に知らされた母は
それを聞かされた警察署で倒れた
母は胃潰瘍で吐血していた
兄の記憶が無い事のショックに
繊細な心が耐えきれず
ほんの一瞬で胃に穿孔が開いた…と
内科の医師が父親に話したという
母の入院は1週間で
思ったより回復が早かったのは
兄に一刻も早く会いたい
その一心だったと思う
それで両親はすぐに動けなかった
両親は兄に実家に帰るように
説得するつもりだと僕に話した
だけど正直それは今の兄には
無理じゃないかと僕は思った
なんにせよ僕は兄から
病気のことを両親に言うことを
止められていた
それに…執着があるのは
僕たち家族であって
兄ではない
すべては兄の一存だが
僕はなぜか兄は
死ぬまであの病院で過ごすことを
望んでいるように思えた
ようやく治りかけた母の身体
でも兄のあの病気のことを聞いて
今度はどうなってしまうだろう
兄とまた暮らしたいと言う母と
それを叶えたい父を見て
黙っていなければならないことが
拷問みたいに思えた
「兄貴は…いままでの兄貴じゃ…な
いよ…でも変わらない…それが嬉し
かったし…辛かったよ…」
僕が両親に言えたことは
その程度でしかなかった



