「ごめんね…もう帰るよ…聞いてく

れてありがとう…笑わないで聞いて

くれて…言えて…良かった…もう来

ないほうが…いいね…」

僕はほんのちょっとだけ

微笑むことができた

でもそれだけだった

兄であって兄でないこの人に

僕はもうどうしていいのか

それ以上わからなかった

最期を看取りたいその気持ちで

胸が張り裂けそうだったけど

それがこの人にとって

良いのか悪いのか

僕には判断つかなかった

兄は黙っていた

そうだね

来なくていい…なんて

優しいから言えないよね

じゃあ僕から言うよ



「さよなら…もう…ここには…来な

いから」

僕は最後の気力を振り絞って

そう告げた

このままだとまた泣きそうだから

すぐに兄に背を向けた

そのままドアの方にむかって

歩き始めたそのとき

背中から声がした



「来て…また来て」



僕は振り向いた

兄はまっすぐ僕を見ていた



「来て…君が…イヤじゃないなら…

ここにまた…来て…」



兄の瞳にはかげりがなかった

ほんの少しも



僕はゆっくりうなずいた



ああ…かみさま

あなたがそういうなら

ぼくはどこにだっていく