「会いに来てくれて…ありがとう」

ふたりきりで部屋にいて

何を言っていいのかわからない僕に

兄は微笑みながらそう言った

「私にも…家族がいて…会いに来て

くれて…泣いてくれる弟がいたんだ

って…」

兄は目を細めた



兄は自分のことを“私”と言った

俺…じゃないんだね

余計あの人に重なって見えて

少し困った

でもそれは取り戻したかった

まごうかたない兄の声だった



兄はどんな風に説明されたんだろう

自分のこと…警察から

どれぐらい聞いてるのかな

僕はそれが心配だった

「何も…思い出せないんですか?」

なぜか僕は敬語を使っていた

僕には兄でも

兄には初対面の他人だからか

それは不意に出た僕の気遣い

みたいなものだったのかも知れない



兄は微笑んだまま

うんうんと2回うなずいた

言葉にすればまた僕が傷つくと

思ったんだろうな…

そんな優しさをまた感じた

「でもね…今回のことでいろいろ私

のことを教えてもらう前に…なぜか

これだけは…わかっちゃったんだ」

僕はちょっとドキッとした

「え…なにを…ですか?」

「私は…ゲイだった…違う?」



その言葉に僕は驚いて

二の句が告げなかった