失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




声を殺す

兄に身体ごと愛された日から

その喘ぎ声を圧し殺して

真夜中の狂宴を耐えてきた

もう忘れてしまうくらい前から



小さい頃から染み着いた

快楽と引き換えの秘密



(バレたら…死ななきゃならない)



命懸けのルールに

耐えれば耐えるほど

快楽は膨れ上がった

僕も兄もあのベッドの中で

ひっそりと狂い続けた

互いの口を手で唇で塞ぎあって…



「息を…吸うんだ…」

彼が囁く

「そうだ…いっぱいになったら…吐

くんだ…肩の力を抜いて…」

彼の導くままに吐息のように

吸気を吐き出す

吐きはじめたとたん奇跡のように

一瞬だけ僕の緊張がスッと抜けた



「ああっ!…ダメっ!」



力が抜けたと同時に

えも言われぬ不安と

ざわざわした感覚が皮膚をおおった

細かい虫が皮膚の下をびっしりと

しかも全身を這い回るような

異様なおぞましい感覚

瞬間的に僕のみぞおちは

またもとの緊張に戻っていた



「ダメだよ…力抜くと…不安過ぎて

ザワザワする…耐えられないよ」

この感覚…なにかに似てる

とてもいやな

思い出したくないようなこの感覚

でもすぐにその忌まわしい記憶が

精神の抵抗を突き抜けて

フラッシュバックしてきた