失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




彼は大判のバンドエイドを出し

僕の額に貼りながら言った

「君はこれから生まれて初めて自分

のために生きることになる…誰のた

めでもない…自分のためにだ」

彼はため息をついた

「孤独だ…その作業は」

無表情にそれを聞いている僕に

救急箱を片付けながら彼は尋ねた

「私の言っていることがどういうこ

とかわかるか?」

僕はまた黙ってうなずいた



わかってるのかな

目を閉じる



さっき見た空が広がる

高すぎて果てしない

あまりにもなにもないことに

淋しくて虚ろなことに

涙が伝った



「生きるための支柱を失った君が精

神に異常を起こしかけたのは当然と

言えば当然だ…あのまま狂ってしま

うこともある…帰ってこられるのは

運の良い者だ…もしくは…最初から

"持たざる者"だろうな…かつての私

のように」

「あなたも?」

それを聞いた僕は思わず彼を見た

「…つうっ!」

うっかり動かした頭に痛みが走った

彼は苦笑しながら僕に言った

「バカだな…じっとしていろ」

そしてもう一度繰り返した

「じっと…してるんだ…」