「当時私は公安に若くして抜擢され
鳴り物入りで入ったキャリア組だっ
た…だがその女に私はゆっくりと蝕
まれていった…ありとあらゆる手練
手管を用いて彼女は私の心の中に入
りこんできた…そして私はついに情
報と引き換えに…あの女と寝た…」
彼の顔が苦悶を表していた
「公安の中の上司の期待と同僚の嫉
妬…私は鳴り物入りで組織に入った
若造が味わう重圧をいつも感じてい
た…キャリアとノンキャリアの確執
や公安と県警の齟齬…その中で組織
を納得させる成果を出せるかどうか
が常に問われる…自信と不安が交錯
し若さという力がプライドを刺激す
るその中で心を保つ術を身につけな
ければならない…」
過去を語るその声に
次第に感情が入り込んでくる
まだ癒えていない傷の気配がして
僕まで息苦しくなった
じっと動かなかった彼が
右手でネクタイの結び目を弛め
一番上のボタンを外し
肩で息をついたのを僕は見た
息苦しかったのは
僕だけではなかった



