失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




「兄貴…が…どうかしたの…?」

盗聴器と…兄貴…

声が震える

「なにか…わかった…とか…?」

彼は僕の目をじっと見た

「牽制された…上からな」

「それ…って…」

「つまり"嗅ぎ回るな"ということだ

露骨に言われたわけではない…まだ

牽制の域だ…これで空気読め…とね

あははは…警察が取り合わないのは

こういうことだろうな…これで逆に

推測できる…君の兄さんは家出では

ないようだな」




目の前が暗くなりそうなショックが

全身を硬直させた

続いて足と胴にわなわなと震えが

「大丈夫か?…顔色が真っ白だ」

「パニクりそう…」

「薬だ…すぐ飲め」

彼はカバンから僕の抗不安剤を出し

シートから錠剤を外し直接僕の口に

それを押し込んだ

「水…持てるか?」

お冷やのタンブラーを震える手で

やっとつかむ

冷たい水が喉を通り過ぎると

少し息が楽になってきた

「…一時帰宅なんて全部フェイクだ

とりあえず君に報告するにもこんな

有り様だ…先が思い遣られる…だが

状況を把握することが君の兄さんを

追い詰めることになるかも知れない

からな…細心の注意が要る…」

それって…?

僕はすぐさま聞き返した

「それってまだ兄貴が生きてるって

こと!?」

「そちらの可能性が高いようだ」

彼はシッと僕に言った

「声が高い…誰が聞いているかわか

らんぞ」

彼は低い声で僕をたしなめた

「わかった…ごめん」

やはり普通じゃない事態が

兄の身に起きているようだった

「気持ちはわかるが…今は自重して

もらわねば…君の状況にも影響して

くる…もちろん私にもだ…なにもな

かったように振る舞うんだ…わかっ

たな?…私がやられたら君を守りき

れない」


彼はカップのコーヒーを飲み干した

「足が痛いのは半分本当だがな」

彼は冗談めかして付け加えた