「それで…僕は兄貴を取り戻せなか

った…兄貴が喪ったものの大きさを

思ったら…僕は兄貴を追い詰めるこ

とが…出来なかった」

僕は彼に促されることもなく

続きを自分から話していた

今まで誰にも話せなかったことを

ただひとりわかってくれる人に

そしてそのことで一番傷つく人に…



彼は静かに椅子に座った

まるで心を揺らさないかのように

とても静かに


「僕はいつもあいつ…兄貴の親父さ

んに嫉妬してた…僕は兄貴の親父さ

んには…絶対に勝てない気がして…

だって兄貴…物心つく前から…なん

にも知らないまま…兄貴の身体にも

心にもあの人が刻みこまれて…」


「血には…勝てないとでもいうのか

君自身が血を分けた兄弟だろうに」

脱力した声で彼が呟いた

「あの二人は…親子の血…だから…

ね」

僕はまた喉が渇いてくるのを感じた

心の底に眠ってるぬぐえない不安

兄の父が亡くなってから

忘れていたこと…

「父親も母親も同じ兄弟なら…あの

人に対抗できたのに…って思ったり

した…でも僕たちの血のつながりで

兄貴が苦しんでいるのを見ると僕の

気持ちには父親だけでも違っていて

良かったとも思えた…半分他人なら

罪も半分になるかなって…でも他人

ならどれだけ救われただろう…そし

て異性ならもっと…」