「なにするんだっ…バカ野郎っ!」
僕はシートに倒れたまま見上げると
濃いグラサンをした客の部下が
ロックを外した座席を2回3回と
全体重を掛けて上司であるはずの
若い男に叩きつけていた
「悪いね…私はあなたの味方じゃな
いんだよ…言うのが遅くなったが」
その…声…
気が遠くなりそうな痺れが
僕の全身を襲った
「おっ…お前!裏切りもの!」
その男はポケットから手錠を出した
そして素早く後部座席に滑り込み
ドアの上の取っ手に手錠の片方を
客の片手をもう片方にはめた
あっという間に客はその男に
車につながれていた
「悪い鬼を捕まえた」
「お前っ!誰だっ!」
男は答えずにニヤっと笑った
「手首を切り落として逃げるか?」
そして彼は運転席のドアを開け
僕に手を差し伸べた
初めて運転手を正面から見た僕は
あまりの驚きに口がきけなかった
「行くぞ…逃げる」
廃屋の向こうから警察が走ってくる
…生きて…た…んだ
その手を握り僕は泣いていた
細くて長い指が僕の手を引く
サングラスを通してでもわかる
変わらない白く端正な顔立ち
細い身体に抱き取られ
警察の死角から車を脱け出す
ああ…こんなところで
なんで
「生きて…た…んだ…」
「君が祈ってくれたからな」
涙が止まらない
「あの焼却炉の陰まで走れ」
彼が僕を引き寄せて走る
少し足を引きずっている
衝突のときにケガしたのだろうか
その奥にバイクが隠してあった
彼が僕にメットを放ってよこす
「後ろに乗れ…逃げるぞ」
生死もわからなかった
あの人が
いま此処に生きていて
僕を救いに



