失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




その時だった

「それまでだ!全員手を上げて壁に

手をつけ!」

誰かの怒号が響き渡った

その声と同時にエンジン音がして

男と客の2台の車を挟み込むように

両側からセダンが走り込んできた

「ヤバい!逃げろ!」

客はそう怒鳴ると僕の腕をつかみ

自分の車に引きずりこんだ

「早く出せ!サツの車突破しろ!」

客が運転席の部下に叫んだ

「警察だ!覚醒剤取り引きの現行犯

で全員逮捕する!」

パァン!と銃声がした

とっさに音の方を振り向くと

男が警察に向けて銃を構えていた

「武器を捨てろ!」

警察が叫ぶ

男に警察の目が引き付けられた

「いまだ!出せ!」

客が運転席に怒鳴る

車が音を立てて急発進する

警察の車をかすめて廃屋の角を

減速しないでハンドルを切った

車は逃走路に入り追っ手を振り切る

はず…だった

だが車は更に鋭くコンパクトに

カーブをやめなかった

リアタイヤが真横にドリフトする

目の前には厚いコンクリートの壁

「うわああっ!」

車は助手席から廃屋の壁に激突した

僕と客は遠心力のまま右側のドアに

一緒にふっ飛ばされた

「ああっ!」

「クソ野郎!なにやってんだ!?」

客が僕の身体の下で

運転手を怒鳴りつけた

その瞬間誰かが僕の襟首をつかんだ

そして客の反対側のドアに思い切り

僕は引っ張られ叩きつけられた

それは部下の運転手の手だった

雇い主を助けるんだな

そう僕が(多分客も)そう思った途端

いきなり運転席が後ろに倒れた

「ぐはっ!」

シートが客の身体を直撃した

激突した衝撃でロックが外れたのか

客はシートの下敷きになっていた